○戯論遊戯○

無知蒙昧な人間が記す、ブログ。日々勉強。

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
English Here
  1. --/--/--(--) --:--:--|
  2. スポンサー広告

■巨匠の力業 ジブリ美術館短編映画 宮崎駿監督『パン種とタマゴ姫』

ジブリの森のえいが『パン種とタマゴ姫』


   いばらの森のその奥の水車小屋に暮らす、
   バーバヤーガに召し使いにされた「タマゴ姫」は、
   水車小屋に閉じ込められ、重労働に追われるつらい
   毎日でした。ある夜、バーバヤーガの言いつけでこねていた
   パン種が、突然生命を持ち、動き出します。
   その「パン種」とともに、恐ろしいバーバヤーガから
   逃げ出すタマゴ姫。二人のこの先はどうなるのでしょう…。

 場所:ジブリ美術館
 期間:2010年11月20日(土)~2011年5月22日(日)
 時間:11分37秒
 原作・脚本・監督:宮崎駿
 音楽:久石譲

 2006年2月27日放送のNHK「生活ほっとモーニング」のジブリ美術館特集で、宮崎駿はジブリ美術館限定で上映される短編映画の立ち位置についてこう語っています。「映画を観にくるよりも、美術館にくるんだと思うんです。それで映画も観ていくんです。だから、あんまり面白くつくんなくてもいいんですよ。へんな言い方ですけど、だから、なんていえばいいんですかね…もうちょっと正直につくれるんです。面白いか面白くないかわかんないけど、これやってみたいからやってみたい、っていうね」。
 商業的な成功が求められる長編映画では滅多にできないこと、そしてやらないことを宮崎駿は短編映画で試みています。前者の例をあげれば、水グモのもんもんがアメンボのお嬢さんにほのかな恋をする『水グモもんもん』。このような異種の虫同士の恋物語(人は出てきません)を長編映画化するのはジブリといえども難しいでしょうし、この作品は『借りぐらしのアリエッティ』の雛形でもあるのだけど、人の形をしたもの同士の交流を描いた『アリエッティ』よりも『水グモもんもん』の方がより意欲的でラディカルです。川の中の生態の様子や描写などピカイチの出来で短編映画の中でも必見だと思います。そして、長編映画ではやらないことの方の最たる例が、続編づくりです。『となりのトトロ』の続編である『めいとこねこバス』がそれで、今のところ続編物としては唯一無二で例外的な扱いです。先ほど、『水グモもんもん』が『アリエッティ』の雛形であるといいましたが、実は短編映画は長編映画制作に向けた実験作としての側面もあります。その一つの例としてわかりやすいのが、キャラクターデザインと背景を単純化してアニメーションの面白さを追求した『やどさがし』です。この作品はその説明からも分かるとおり『崖の上のポニョ』の作画技術的な先駆作品の一つで重要な作品であり、それと同時にその追求度は『ポニョ』よりもある意味徹底していて、背景画の簡素化とその隙間を埋めるかのごとく環境音のオノマトペの視覚化、そして、音楽と効果音を全てタモリひとりの声で表現する実験精神などを考えると、『やどさがし』は短編映画の中で一番実験的な作品です。
 ここで紹介してきた短編映画も紹介できなかった短編映画のどれもジブリ美術館という限られた場所でしか公開されていませんが、そのクオリティはどれも非常に高く、作品自体の面白いさも長編映画とはまた違ったものがあるので、最近のジブリ作品はどうも苦手だという方こそ是非一度でもジブリ美術館に行って、短編映画を観てほしいと私は思います。


 ロシアの方の民話でよく出てくる魔女・バーバヤーガ。
 臼に乗って移動する。

 ジブリ美術館の短編映画としては8作目の『パン種とタマゴ姫』を公開初日に観てきました。NHKのプロフェッショナル仕事の流儀でこの作品のドキュメントを少しやっていたのを観て、「21世紀に通用する作品とはなにか」に宮崎駿は非常に苦心しているのが伝わってきたのだけど、この『パン種とタマゴ姫』を観ると、ああこんなにも苦しんでいるのか、そしてああ本当に真剣に新しい物語をつくろうとしているのだなと理解しました。この作品は全編キャラクターのセリフが全くなく、ヴィヴァルディの『ラ・フォリア』という曲を久石譲が現代的に再構成した音楽を伴いながら、宮崎駿を筆頭とする作画スタッフのアニメーションの力でぐいぐいと物語を引っ張っていく強い意志を感じました。私はこの作品を観るまでは、もっと気楽なほっと息がつけるような映画を想像していたのだけど、「今回は普通の映画にはしたくない」という宮崎駿の意気込みがタマゴ姫やパン種のような気が抜けたキャラからは予想できない、得体の知れない迫力をこの作品に獲得させています。
 『パン種とタマゴ姫』は、バーバヤーガという魔女が目玉焼きをまとめ食いしているシーンから始まります。フライパンから直に食べているバーバヤーガは次々に新しい卵を入れていきますが、ひとつだけ強く何度叩いても割れない卵がありました。それが、タマゴ姫です。魔女は自分のリボンをタマゴ姫のスカートにして、召使いとしてタマゴ姫を働かせます。ある晩、魔女の水車小屋で挽いている小麦を粉にしたものをまとめて入れてある船型のいれものに月の光が差し込んできます。すると、小麦の粉は生命を持ちはじめ、むくむくと動きだします。魔女が置いていったリンゴは鼻になり、近くにいたタマゴ姫はブトウで目をつけてあげました。そして、ふたりは魔女の小屋から逃げ出します。ここからふたりの逃避行が始まるのですが、ウサギの姿をした農民たちが麦畑で働いている中を駆けていくふたりの動きは、久石譲の駆り立てるような音楽もあいまって躍動感にあふれています。追ってくる魔女との駆け引きや村の中でのドタバタなど観ていて面白く、アニメーションの素晴らしさを私たちに教えてくれているようです。バーバヤーガについに追い詰められ、パン種は釜戸に入れられてしまうのですが、そこから出てくるのはこんがり焼けた丸パンではなく、マッチョになりどこか精悍な顔つきをしたパン雄。騒ぎに駆けつけた村の領主であるタマゴ王とタマゴ女王(タマゴ姫の父と母?)の立会いもあり、バーバヤーガの取り分としてパン雄の胸の部分が与えられ、騒動は決着。夕日を背にパン雄とその肩に乗ったタマゴ姫はどこかに出かけていくのでした、めでたし、めでたし。
 文にすると、筋の通った話に思えるかもしれませんが、上に書いたのは映画のパンフレットの情報と映画を体験し終えた私の解釈が入っていますし、実際映画を観ているときは、これから何が起こるか予想がつきませんでした。「この作品では、動機の説明はしたくない」という宮崎駿の言葉のとおり、キャラクターの顔は何を考えているかわかりません。それに、セリフがないので、観客はキャラクターたちの行動を固唾を呑んで見守るしかなく、物語の先読みをするのは困難です。凡百の演出家なら、この物語を貴種流離譚の一種と捉えて、タマゴ王とタマゴ女王の元からタマゴ姫が離れていく発端の場面をつくって、話をわかりやすくすると思うのですが、宮崎駿は「正体を捕まれないようにする」ため、そのようなことはしません。いわば、観客たちは物語が立ち上がって、生成していく様をみていくしかないのです。このような種類の映画は下手をすれば、行き当たりばったりのものになりがちですが、そこをアニメーションの力で乗り切る宮崎駿はさすがとしかいえません。このような芸当ができるのは、アニメーションの力を信じ、それを具現化できる力量をもったスタッフたちがいるからこそだと思います。『パン種とタマゴ姫』は、現代的な物語の探求者である宮崎駿を再確認するいい機会に、私にとってはなりました。


『パン種とタマゴ姫』の着想の元となったピーテル・ブリューゲルの「穀物の収穫」

 『パン種とタマゴ姫』の公開と同時にジブリ美術館では、企画展「ジブリの森のえいが展―土星座へようこそ―」の後期分が始まっています。この展示では、ジブリ美術館でこれまで公開されてきたすべての短編映画を立体造形物やパネルを使って紹介していますが、後期からは『パン種とタマゴ姫』の展示も追加されました。パン種とタマゴ姫の逃避行の一瞬をジオラマ化した展示物をはじめ、麦からパンができるまでの過程を、麦を刈るための鎌や麦、そして小麦粉の実物を展示して、さらに宮崎駿による解説パネルでわかりやすく丁寧に紹介してくれています。この宮崎駿の解説イラストがとてもユーモアたっぷりで、私はパネルの前でしばし立ち止まって読みふけってしまいました。情報量も多く、映画の中では一言もしゃべらなかったパン種やタマゴ姫、バーバヤーガの三方がこのパネルでは饒舌に説明してくれますし、ライ麦の説明では、黒パンを食べているハイジが描かれていたりしているので、このような小さな発見をするのも楽しかったです。『パン種とタマゴ姫』ができるまでの展示として、絵コンテというよりメモ書きのストーリーボードやイメージボードなども展示されていて、親切にも、ただ絵が描かれた紙が置いてあるだけではなく、宮崎駿による解説があってこの作品の成立までの過程がよくわかります。タマゴから女の子が出てくる案は、20世紀では通用したかもしれないけど、21世紀では通用しないと指摘してあって、似たようなアイディアで以前本人も大いに関わった『ガリバーの宇宙旅行』を思い出してつい笑ってしまいました。展示の中ほどには、色んな種類のパンを部分にして、映画よりも勇壮でマッチョ度を増したパン雄の姿があって、これも見物です。
 短編映画の上映前や企画展示室の一角で、これまでの短編映画のダイジェストをまとめた数分の紹介フィルムもかけられているので、まだジブリ美術館に来たことがない人にとっては格好の機会かもしれませんよ。


『パン種とタマゴ姫』のサウンドトラック。
ジブリ美術館でしか買えない。1000円。

 追記.『パン種とタマゴ姫』のサウンドトラックが、2011年2月2日に一般発売されることになりました。値段が1260円と美術館販売盤よりやや割高となっています。それと、ケースカバーが一般販売盤と美術館販売盤では違うようです。(2011/2/2)



 関連当blog記事
若者たちへの応援歌 宮崎駿『風立ちぬ』
児童文学のススメ 「宮崎駿が選んだ50冊の直筆推薦文展」
スタジオジブリの好奇心 小冊子『熱風』2010年6号 特集「赤毛のアン」
借りぐらしのアリエッティ 前売券特典「アリエッティ ミニ本 1」
ジブリ作・豪華版「まんが日本昔ばなし」 ジブリ美術館短編映画『ちゅうずもう』

スポンサーサイト

テーマ:スタジオジブリ - ジャンル:映画

English Here
  1. 2010/11/21(日) 21:43:18|
  2. movie
  3. | トラックバック:1
  4. | コメント:0
次のページ

プロフィール

紫の豚

Author:紫の豚

最近の記事

月別アーカイブ

カテゴリー

UNIQLO CALENDER

ブログ内検索

最近のコメント

FC2カウンター

google ad

カスタム検索

ad

blog ranking

人気ブログランキングへ

book log

twitter

RSSフィード

book list

リンク

このブログをリンクに追加する

最近のトラックバック

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。