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■魔術師の種明かし 三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー提供作品 シルヴァン・ショメ監督『イリュージョニスト』



   この作品はアメリカのアニメーションのように、
   観る人を先導してくれるものではない。
   遊園地のジェットコースターではないんだ!
   これは“個人旅行”なんです。

    『熱風』2011年2号 特集「イリュージョニスト」
    シルヴァン・ショメ監督 インタビューより

 ジブリ美術館のことをスタジオジブリのテーマパークのようなものだと認識している人がいるかもしれません。もちろん、そのような面が全くないとは否定できませんが、そもそも“ジブリ美術館”というのは通称であって、その正式名称を“三鷹市立アニメーション美術館”といいます。だから、ジブリ作品の世界を体験できる場であると同時に(というより、それを通して)アニメーションのルーツや制作工程を知ることができる美術館なのです。それに、企画展示として「ユーリー・ノルシュテイン展」、「ピクサー展」、「アードマン展」をおこなうことで、日本アニメとは違う手法や表現の、優れたアニメーションを紹介してきました。
 さらに、ジブリ美術館は“三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー”という名目で、世界の秀作アニメーションを日本で劇場公開(配給)、そしてビデオリリースをする新事業を2007年から始めています。その第一回提供作品に選ばれた『春のめざめ』は、『老人と海』でアカデミー賞を受賞した監督アレクサンドル・ペトロフの新作アニメーションでありましたが、監督の本国ロシアではその芸術性の高さゆえに劇場公開されていなくて、劇場公開そのものが日本で初でした。このようなメジャーな映画会社から配給されない良質なアニメーションを紹介したり、他国では大ヒットしているが日本がアニメ大国であるがゆえに知名度が低く配給されにくい作品、例えばミッシェル・オスロ監督の『アズールとアスマール』、を選んで劇場公開しています。『春のめざめ』はガラス板に直接油絵の具で描く印象派風の画面、『アズールとアスマール』は装飾的で平面的そして絵本のような色あざやかな画面で、両作品とも、日本のアニメ映画ではなかなかみられない独特のアニメ表現をしていて驚かされます。その他に、若き日の宮崎駿は言うに事欠かず、若者であった高畑勲にアニメ表現の大きさの可能性を示した『王と鳥』(正確にはその未完成版『やぶにらみの暴君』)、そしてアニメーションに込められた貫かれた想いと志の高さに宮崎駿が感動した『雪の女王』、といったような高畑・宮崎両氏が影響を受けた過去の知られざる名作アニメーションのリバイバル上映と再ソフト化もこのライブラリーではおこなっています。
 個々の作品のファンのなかには、“三鷹の森ジブリ美術館ライブラリー”と冠が付くことを嫌う方もいるでしょうが、大規模ではないにせよジブリ美術館が配給することで、その作品に対する間口が広がってより多くの観客にみてもらえる可能性を考えれば、そう悪いことはないと私は思います(映画の公開と連動して、美術館でその映画についての展示がされることもあります)。



 2011年3月26日から日本で公開されるシルヴァン・ショメ監督の最新作『イリュージョニスト』を先行上映する、「三鷹の森アニメフェスタ2011」第二部の特別上映会に行ってきました。
 前作の『ベルヴィル・ランデブー』は、台詞が非常に少なく、極端な身体のデフォルメーションにも驚嘆しますが、それ以上にストーリー展開の奇天烈さは類をみない作品でした。それはたとえば自転車レースの特訓を過酷にこなしているかと思えば、肝心のレースはうまくいかない。おばあちゃんが孫の行方を追って“ベルヴィル”という巨大都市に着いたと思えば、なぜか三つ子の老婆姉妹の音楽バンドに参加したりと、観ている人の予想を裏切り続けるといったようにです。しかし、音楽や背景美術のデザインもとても洒落ていてイイし、次はどうなるんだと気になるので、最後まで意外な展開で観る人の心を掴んで離さない傑作アニメーションとして知られています。
 今回観に行った新作『イリュージョニスト』でも台詞の数が少なく、音楽や背景美術は洗練されていて前作の雰囲気を感じさせる部分もありますが、前作のような奇抜さは鳴りを潜めていて、シンプルなストーリーでしみじみとさせる味のある映画でした。
 『イリュージョニスト』の脚本は、フランスの喜劇王といわれたジャック・タチが娘に遺したシナリオをもとにしています。私はこの映画を知るまでジャック・タチのことは知らなかったのですけど、『熱風』にあった映画評論家・坂尻昌平の記事によると、「タチ映画の影響は大きく、ヌーヴェル・ヴァーグのゴダール、トリュフォーを始めとして、デヴィッド・リンチやティム・バートン、タルコフスキーやイオセリアーニ、ミスター・ビーン、そしてシルヴァン・ショメに至るまで、枚挙に暇がない」というように、映画業界人に与えた影響は少なくないようです。TSUTAYAのレンタルで借りたジャック・タチの代表作『ぼくの伯父さん』のDVDパッケージには“フランスのチャップリン”と書いてありましたが、ジャック・タチもチャップリンのように本人が主演して監督もやる人でした。だから、『イリュージョニスト』も元々は本人が演じるものとして構想されたので、主要キャラクターのタチシェフはジャック・タチにそっくりです(名前も)。台詞の少なさと基本パントマイムで演じるタチ映画のスタイルは『ベルヴィル・ランデブー』を観ても明らかで、シルヴァン・ショメにも受け継がれています。そのショメのタチへの敬愛は、『イリュージョニスト』のタチシェフの仕草や動きにしてもそうですが、人物の頭からつま先まで全体を画面でみせる構成がタチ映画そのもので、よくわかります。
 『イリュージョニスト』のストーリーは、1950年代フランス・パリの場末のステージで昔ながらのマジックを披露する初老の手品師タチシェフが、ある日スコットランドの離島に流れ着き、そこの片田舎のバーで貧しい少女アリスと出会うことから始まります。彼女がバーの掃除で使っていた石鹸を新品の石鹸にタチシェフが取り替えたことで彼のことを魔法使いだと信じ、彼女は島を離れるタチシェフを追います。言葉が通じないながらもエジンバラの片隅で一緒に暮らし、タチシェフは彼女にプレゼントを続け、アリスはどんどん美しくなっていきます。そんなある日、アリスは格好いい青年と出会って…といったお話です。場末の落ちぶれた芸人、老人の助けで輝きをます少女、そして後で現れる若い男、この筋書きはチャップリンの晩年作『ライムライト』を彷彿とさせますが、ショメ監督によるタチ映画は劇的な展開をみせませんし、あくまでパントマイムにこだわる姿勢は、動きで語りながらもセリフを必要としたチャップリンとは対照的です。アリスとタチシェフが言葉でコミュニケーションがとれないのも(アリスの言葉はケルト語の一種であるゲール語)、そうした姿勢の反映だと思います。
 ショメ監督が公式サイトの「プロダクション・ノート」で、「もし『ベルヴィル・ランデブー』が複雑な話をシンプルに語っているとしたら、『イリュージョニスト』はその真逆だった。すごくシンプルに見えて、極めて複雑なんだ」と言っていますが、この複雑さをアニメーション映画監督の細田守が『熱風』の記事で、“手品”を“アニメーション”でやることの二重性として指摘していました。つまりアニメーションは作画をすれば、どんなマジックだって起こせるわけで、手品の驚きが全く伝わらないと。でも、それをあえてやることがその二重性だというわけです。この手品をアニメーションでみせるのは、細田氏の指摘の通り、諸刃の剣だと私も思います。下手をすれば、映画の世界が瓦解しかねません。それに、手品のみせ方にしても引きの画面で、説明的なカット割をしていないので、タチシェフの手品のなかには仕込みがわからないものがありました。だから、それは想像するしかないのですが、そもそもその手品に“仕込み”が本当に存在するのか、と疑問を持たれてしまう恐れがあります。ショメ監督はこの問題を気づかずに、放置していたのでしょうか。私は思うのですが、しかしだからといって、手品をする前に観客にその仕込みを全部アップでみせて説明したりしたらどうなるのかと。そうしたら、タチシェフの手品の裏側を知った観客で、その手品を魔法と信じるアリスのことを馬鹿にする人が多くでてくる可能性があります。ショメ監督はそうなるよりも、アリスとともにタチシェフの手品を(タネがあると知りながらも)驚き楽しみ、アリスが魔法と信じてしまう気持ちを理解して欲しかったのだと思います。手品のなかに仕込みが示されないものがあるからこそ、最後のタチシェフの“種明かし”が印象深くなるのだし、どこかさっぱりした気分にもさせてくれるのです。
 ここまで長々と思うところを書いてきましたが、この映画はハリウッド映画のようにエンターテイメント主体の映画ではありません。でも、人生の哀しみや楽しみ、あり方のひとつをアニメーションで描いた美しい作品だと思います。手品師についていくアリスの姿は、映画を観にくる私たちの姿であり、タチシェフたちがそれぞれの人生を歩んでいくように、私たちは映画が終わるとそれぞれの人生へと戻っていくのです。




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テーマ:映画レビュー - ジャンル:映画

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  1. 2011/03/10(木) 21:43:27|
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