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■若者たちへの応援歌 宮崎駿『風立ちぬ』


宮崎駿『風立ちぬ』
 掲載誌:月刊モデルグラフィックス 
 連載期間:2009年4~9月号・11~12月号、2010年1月号(全9回)


   日本の少年よ
   創造的人生の持ち時間は10年だ。
   芸術家も設計家も同じだ。
   君の10年を力を尽くして生きなさい

    宮崎駿『風立ちぬ』第2回より 
    ジャンニ・カプロニーの言葉

 宮崎駿が長編映画をつくっていない時期に何をしているかご存知でしょうか。次回作の構想を練っているのも確かですけれど、古くは『風の谷のナウシカ』のマンガ版をアニメージュ誌で連載していたり、かたやプラモデル系の雑誌で飛行機や軍艦、戦車を存分に出したマンガを色々と描いています。前者のマンガ版「ナウシカ」は、映画版の公開から10年経った1994年まで連載が続けられ、後者の雑誌「月刊モデルグラフィックス」で描かれたマンガ『飛行艇時代』は長編映画である『紅の豚』の萌芽となりました(『飛行艇時代』は単行本『宮崎駿の雑想ノート』に収録)。
近年、ジブリ美術館が開館してからは、短編映画の制作に乗り出すなどますます多忙を極めており、宮崎駿を長編アニメーションの作家としてのみ捉えると見誤る…というよりか、それだけでは実に勿体無いのではないかと私は思います。

 『崖の上のポニョ』公開からしばらく経ったあとに、長編映画の公開に比べればだいぶひっそりと、宮崎駿の新連載が月刊モデルグラフィックスで始まりました。それが、零戦の設計主任技師を務めた堀越二郎を主人公としたマンガ、『風立ちぬ』です。マンガの題名は、『風立ちぬ』や『菜穂子』といったサナトリウム文学の名作を書いた堀辰雄の同名の小説からきています。そのこともあってか、昭和初期の同時代に新進気鋭の文学者であった堀辰雄が、日本航空技術の黎明期に奮闘した堀越二郎の飛行機づくりに対する姿勢に影響を与える場面が描かれています。


  三菱の九試単座戦闘機 試作一号機

 堀越二郎は零戦の設計者として有名ですけれど、『風立ちぬ』では零戦の設計まで話は続きません。物語の大方は、二郎が三菱飛行機工場の設計技師として入社してから九試単戦の設計を成し遂げ、その飛行実験が成功するまでです。『風立ちぬ』の第1回の最初で、イタリアの航空機メーカー・カプロニー社の伯爵ジャンニ・カプロニーに「いいかね ヒコーキは戦争や経済の道具ではないのだ」「それ自体が夢の結晶だ 美しくあらねばならん」と少年期の堀越二郎に対して語らせているように、宮崎駿の関心は機能の洗練の徹底化と戦争の悲劇にまみれた零戦ではなく、日本で複葉機が主流であった時代に低翼単葉の飛行機を確立せしめた九試単戦、特に戦闘用の装備がほとんどされていない試作1号機にあったようです。この飛行機のことを作中で宮崎駿は「日本でいちばん美しいヒコーキだ」と語っています。

 ところで、宮崎駿が『風立ちぬ』の連載をしている頃、スタジオジブリでは新人監督による長編映画の準備を含めた制作がおこなわれていました。身近で起こっている事物に影響されやすいといわれている宮崎駿ですが、それが『風立ちぬ』でもあらわれているように私には思われました。例えば、七試艦戦の設計主任として初めて飛行機の設計に抜擢された堀越二郎のことを「まあ新人監督と同じだな」とフキダシで語ったり、自社のエンジンではなく他社のものを使いたいと会社の会議で二郎が言って、すげなく会社の重役に断られる場面では「まあ新人によくあることだ」と述べたり、またことあるごとに飛行機の設計を長編アニメーションの制作になぞらえて解説したりするので、このマンガを通して映画監督としての心得を説いているような気がしました。それが顕著だと思ったのが次の場面です。

 七試艦戦の設計を終え、夜中にその機体の前で
 一人たたずんでいる堀越二郎を
 背後からジャンニ・カプロニーが問いかける。
   「どうかな 君の最初のヒコーキは」
 二郎はポツリと答える。
   「……みにくい アヒルの子でした」
 努力を尽くし、自分のできる限りのことは果たしたが、
 会社の事情、自国の工業技術水準の低さ、戦闘機乗りたちの
 要求に引きずられて、二郎が当初思い描いていたものとは
 遠く離れた飛行機が目前にはあった。
   「原因はなんだね おろかなスポンサーの軍人共か
   会社の重役か それともパイロット達か
   君の国の技術水準かな」
 唇を噛み締めたあと、二郎は毅然として答える。
   「いえ… 原因は自分の力の不足です」
   「よし それでいい では胸をはって進め」
  (『風立ちぬ』第4回より 地の文は筆者による補足)

 宮崎駿の『風立ちぬ』は、スタジオジブリの若手監督たちに向けられたエールなのかもしれません。

  

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テーマ:マンガ - ジャンル:アニメ・コミック

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  1. 2010/11/10(水) 02:26:11|
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