○戯論遊戯○

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■まだ風は吹いているか 長篇引退作品 宮崎駿監督『風立ちぬ』


スタジオジブリ絵コンテ全集19 風立ちぬ』【c26】より
 劇場公開:2013年7月20日(土)
 制作期間:2011年7月6日~2013年6月19日
 上映時間:126分35秒14コマ
 作画枚数:161,545枚

   堀越二郎と堀辰雄をごちゃまぜにして、
   零戦という神話と化した飛行機の誕生をたて糸に、
   美しい飛行機づくりに熱中する青年技師と
   薄幸の少女との出会いと別れをよこ糸に、
   完全なフィクションとして1930年代の青春を描く。

    宮崎駿『風立ちぬ』中間報告より


 漫画版『風立ちぬ』連載第8回より

 「映画をつくるとき、たいてい一人か二人の親しい知人を念頭に置きます。『風立ちぬ』のときは、一人の少年でした。その人が誰かは言えません。わたしが彼のために映画をつくったことを彼自身知らないからです。でも、彼は映画を観てとても気に入ったと言ってくれました。彼は14才の少年です」
Thompson on Hollywood 「Miyazaki Talks Retirement, Oscars, True History in 'The Wind Rises'」 2014/2/14 より 日本語翻訳)

 『パンダコパンダ』や『アルプスの少女ハイジ』をつくっていた頃は息子たちに見せるために仕事をしていたと宮崎駿は言っています。『魔女の宅急便』はキキと同年代だった鈴木敏夫の娘(麻実子さん)のための映画だという押井守の証言があります。そして、有名な話ですが、『千と千尋の神隠し』の千尋は、長年スタジオジブリと関わってきた日本テレビ映画事業部のプロデューサー奥田誠治の娘の千晶さんがモデルで、彼女のための映画ともいえるでしょう。ここ最近になって明らかになったことですが、元ピクサー堤大介の妻の芽以(めい)さんは宮崎駿の姪っ子で、『となりのトトロ』のメイのモデルだというではないですか。宮崎駿の映画には、膨大な製作費・多数のスタッフ・長期の制作期間をかけた反面、プライベート・フィルムとしての側面があることが隠されているのです。
 「『風立ちぬ』は大人の映画という見方があったようですけど、ぼくに言わせればそれは嘘っぱち。一人のヒーローがいて、それを支えるヒロインがいて……。少年が観てこそ意味がある映画なんです」(『仕事道楽 新版 スタジオジブリの現場』)と、このように鈴木敏夫がいうのは、上に引用した宮崎駿の海外インタビューで言及されている少年の存在を知っていたからではないでしょうか。『風立ちぬ』の初めに登場する少年期の堀越二郎は13才、宮崎駿が映画のターゲットにした少年の面影が投影されていたとしても不思議ではないでしょう。
 「『風立ちぬ』は宮崎さんなりの“『君たちはどう生きるか』(吉野源三郎著)”ですね?」と、宮崎駿を追い続けて7年の間ドキュメンタリーを撮ってきた荒川格が宮崎駿に訊ねたことがあったそうです(『風立ちぬ』NHKドキュメンタリーBDDVD封入特典ブックレット「ディレクター・インタビュー」)。『君たちはどう生きるか』は日本で軍国主義の勢力が日ごとに強まっていった昭和12年(1937年)に出版された「人生読本」です。本の中で、著者の吉野源三郎は叔父さんの姿を借りて、次の時代を背負うべき少年少女の一人であるコペル君に対して「人間らしく立派に生きよう」と切実に語りかけ、未来へ希望を託しました。
 「3月11日のあとに 子どもたちの隣から」(『本へのとびら 岩波少年文庫を語る』)という文章のなかで、宮崎駿は「おそろしく轟轟と吹きぬける風」、「死をはらみ、毒を含む風」、「人生を根こそぎにしようという風」、がついに吹き始めたと語っています。『風立ちぬ』はそうした「風」が吹き始めた時代の映画として意識してつくられています。現在の状況は終わりが始まったばかり、ナチス侵攻前後のオランダを描いた連作『あらしの前』『あらしのあと』の『あらしのあと』に出てくる「正常にもどるんだ」「もとにもどるんだ」という言葉が本当に意味を持つのはまだまだこれからだ、ということも語っています。『風立ちぬ』制作の間、宮崎駿の作業机にはずっと、朝日新聞(2011年5月1日朝刊)に掲載されたジャーナリスト佐々木俊尚の『あらしの前』『あらしのあと』の書評切り抜きが貼られていました。この連作を翻訳したのが前に述べた『君たちはどう生きるか』の吉野源三郎です。


 漫画版『風立ちぬ』連載第2回より

 堀越二郎の生涯の仕事を、映画に登場しませんでしたが東大航空科の同窓生である木村秀政が評して、「一番油ののった、充実した時期は(初めて設計主任を務めた)七試艦戦の着手からゼロ戦完成までのおよそ10年間ではなかったろうか」と言っています(「ゼロ戦設計者 堀越二郎の生涯」『航空ジャーナル 1982年4月号』)。
 宮崎駿は自身の「創造的人生10年」について、映画公開から1年経った『熱風 2014年7月号』掲載のインタビューで次のように語りました。
 「僕は「君の持ち時間は10年だ」みたいな話を、つい「風立ちぬ」の中で言っちゃったけど、自分自身の持ち時間というのは、実は40代なんですね。30代の終わりごろから40代の終わりごろまでの10年です。そこでの作品は明瞭に自分の中でつくりたかったものがあって、つくったものです」
 『風の帰る場所 ナウシカから千尋までの軌跡』に収録されている渋谷陽一による(2001年11月の)インタビューで、「カリオストロ」(1979年)と「ナウシカ」(1984年)と「ラピュタ」(1986年)と「トトロ」(1988年)の4本の映画をつくって、「ある時期までやりたいと思ってたことに一応全部手を出せたっていう感じがあった」「ここまでやれたらいいやっていうふうにそんとき密かに思いました」と宮崎駿の心情が吐露されています。映画監督デビュー作となった『ルパン三世 カリオストロの城』に着手したとき、宮崎駿は38才。スタジオジブリの代表作となった『となりのトトロ』を完成させたとき、宮崎駿は47才でした。


『スタジオジブリ絵コンテ全集19 風立ちぬ』【c1351】より

 「本当は零戦による重慶爆撃を描こうとしたんです。でも、うまく表現できなかった」
 (「上野千鶴子×鈴木敏夫 対談」『AERA 2014年8月11日増大号』)

 中国大陸、本庄の飛行機(九試中攻)が中国軍のソ連製の戦闘機(ポリカルポフI-15)に襲われ、火を噴いて墜落していくシーンが、二郎と本庄の予感として本編では描かれました。『風立ちぬ』完成報告会見で、宮崎駿が二郎の飛行機と中国の飛行機との空中戦を描く覚悟を持って映画づくりに挑んでいたことが明かされましたが、試行錯誤の末、『風立ちぬ』企画の提案者・鈴木敏夫がどう表現されるか興味があった零戦の空中戦は描かれず、最終場面、二郎とカプローニの"夢の王国"に零戦の群が現れて大空に吞み込まれていく表現となりました。

 漫画版『風立ちぬ』は全9回で連載が終了しましたが、宮崎駿によると「事実上未完」であり、ジブリ美術館短編映画の作業のために漫画連載を切り上げざるをえず、「挫折」を味わったそうです(『スタジオジブリ絵コンテ全集19 風立ちぬ』月報)。そして、そのためか連載当時『月刊モデルグラフィックス』の担当編集だった方によれば、単行本は宮崎駿によって続きが描かれるまで出版されないそうです。
 漫画そして映画でも描かれなかった零戦開発を含む昭和の10年間は大変中身があると宮崎駿は言ってはいますが、2015年2月16日公開のTBSラジオ『荒川強啓 デイ・キャッチ!』ポッドキャストにて、映画をつくり終えて「零戦の呪縛から完全に解放」されて「いまはもう零戦どうでもいい!」「もう零戦の本を見なくてもいい人間になった」との宮崎駿の発言があり、引退記者会見のときに言っていた「やらない自由」もあることを思うと、その10年間が漫画で描かれる保証はどこにもありません。
 続きが『月刊モデルグラフィックス』で再び連載されるのか、単行本描き下ろしで出されるのかわかりませんが、とにかく宮崎駿がやる気になるまで待つしかないようです。
 まだ「風立ちぬ」は終わっていないのです。

 追記. 漫画版『風立ちぬ』全9回が収録された、単行本『風立ちぬ 宮崎駿の妄想カムバック』が発売されました。ただし、残念ながら『風立ちぬ』描き下ろし漫画が付かない「未完」のままの出版となりました。
 戦国時代マンガ『鉄炮侍』を描き終えた上で、大幅に描き足された『風立ちぬ』を同時収録する、というのが宮崎駿本人の要望だったそうです。
 前提の『鉄炮侍』が連載無期限延期となり、単行本出版の無期限延期も危惧したモデルグラフィックス編集部が宮崎駿に懇願して、どうにか『風立ちぬ』単独の出版許可をもらった、というのが事の真相だそうです。
 出版経緯に宮崎駿がどこか納得していないところがあるためか、単行本出版に当たっての宮崎駿の新規のコメントはありませんでした。
 『鉄炮侍』と完結した『風立ちぬ』が収録された、宮崎駿が当初望んだ通りの形での単行本出版がされる日が来るのを切に願います。(2015/10/6)



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テーマ:スタジオジブリ - ジャンル:映画

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  1. 2015/02/23(月) 00:53:42|
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